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  中世ヨーロッパについて、
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  1.中世ヨーロッパの成立
  2.騎士の世界
  3.封建領主の世界
  4.叙任権闘争:王 vs. 教会
  5.十字軍、その光と影
  6.都市とペスト:中世の黄昏


第1章 中世ヨーロッパの成立

 中世ヨーロッパ世界が成立する以前、国家としてはローマ帝国、文化としてはヘレニズム文化という形で、地中海世界が広がっていた。東ローマ(ビザンツ)の影響下にあった南イタリアあたりでは、事情が違うのだが、(こちらに興味のある方は、『中世シチリア王国』高山博著講談社現代新書がお勧め)北イタリア以北の狭い意味でのヨーロッパ世界での、中世の成立は、地中海文化からの訣別、と言えば聞こえが良いが、民族大移動という、蛮族ゲルマンによる大侵略によって、西ローマ帝国がその文化ともども崩壊し、地中海から切り離されて孤立した、内陸の後進文化ヨーロッパが、それなりの統一意識を持ちながら、キリスト教という僅かに残された窓口を頼りに、古代文明の復活への歩みを始めた時期である、と理解する。

 さて、その中世世界の形成は、ゲルマン民族の定住、騎士階級の文化と村落共同体の成立、封建的秩序の確立、という順序で進められていく。騎士と封建領主の問題は、別の章で取り上げるので、ここでは、主に農業改革と村落共同体の成立について述べておく事にする。ヨーロッパの形成に関わるもう一つの問題として、キリスト教の受領があるが、この問題についても別章で考える事にする。最後に、この時代のヨーロッパ世界は、われわれ現代人の目からは奇異に思えるほど、空白部(未開拓地)の多い点と線の世界だった、という事を注意事項として特記しておこう。この認識をぬきにして中世を語る事はできない。さて、それでは、中世成立期の農村に目を移してみる事にしよう。

 10世紀末の農業革命とその結果である中世封建制の確立という流れで見ていくことにしよう。そもそも農業革命の核は、道具と耕作技術の発展である。まず、それまで木製が基本であった農機具が、鉄製のものに代わってくる。また家畜が耕作に使われ始めたのもこの頃である。耕作技術としては、移動式農法から三圃式農法への進化ということがある。これは種類の違う麦ならば連作が可能である事を利用した新しい考え方で、冬播き→春播き→休耕地の順で耕地をローテーションさせることで、有効な土地利用が可能になった。現代の私たちの目から見れば「その程度の」と思える発展だが、この道具の普及と新農法の導入は、文字通り革命的な増産を10世紀末に実現し、社会のあり方までも変えてしまったのだ。

 道具の進化は開墾地の増加を促した。また、三圃式の休耕地は家畜の放牧場になるのだが、一軒の農家の休耕地で飼える頭数は高が知れており、必然的に複数の農家による共同作業、区画整理が行われる事になった。さて、なるべく大きく耕地を集めて三分割する方が、三圃式の効率を上げることにも、家畜や鉄器具を使った耕作にも有利である。こうして、耕地の集中が起こり、それが必然的に住居の集中を生む。これが中世初期における村落の形成で、むしろ自然発生的に行われた面が多い。ところが他方で、この頃から封建領主と騎士の分化が始まる。この封建領主により、土地の支配が持ち込まれるのだが、村落という単位で支配をする方が、個々の農民を把握しておく事よりも容易であることから、領主も積極的に村落形成に力を貸す事になる。こうして封建制度が定着するにつれ、村落共同体の数も加速的に増えていったのである。

 領主が村づくりに手を貸す具体的な手段としては、農民の住居が集中しそうな地点にあらかじめ教会を建てたり、パン焼きかまどや水車を設置したりということがあった。また、その村に属する農民には、種や道具を貸し付けたり、場合によっては家を作る材料を提供したりもした。こうして出来上がった共同体は、自然に教会を中心に集まるようになり、主日ごとの礼拝も違和感なく受け入れられたのだ。始めのうちこそ領主の縁戚から選ばれていた村の司祭も、やがて司教によって選任されるようになり、俗界を離れた権威をもつようになる。洗礼、ミサ、告解(懺悔)等が、大切な習慣として人々に尊重されるようになる頃には、キリスト教は完全に村の生活に定着し、ヨーロッパの宗教となっていった。


第2章 騎士の世界

 中世ヨーロッパの騎士という身分は、要するに封建領主になり損ねた支配者たちです。ここでは、まず民族大移動という部族単位の集団から、いかにして封建領主層が発生し、領主になり損ねた騎士階級が発生して、ヨーロッパ中世独特の階級制度が出来上がったということを中心に見ていきたい。更に、タイトルにある通りの、騎士の世界、という事は、中世ヨーロッパ的な封建関係について、少し見ていくことにする。(この問題については、個人主義も参照)

 そもそもゲルマン民族大移動という現象自体が、(騎馬民族に押されて移動が始まったという事情があるにせよ)根本的には、焼畑を中心とした原始的な移動農法しか知らなかったゲルマン人が、深刻な農地不足を解決するために豊かなローマ帝国に略奪行を行った、という性格のものである。部族ごとに定着したゲルマン人たちは、ローマの領域内でも、同様の移動農法をくり返し、族長が国王と呼びかえられただけで、基本的には同じ生活を続けていく。ただ、この民族移動の嵐が終わった時点で、農地にも限りがあるのだということが実感される。略奪しようにも、豊かな土地がなければ仕方がない。しかも、武力がいくら優れていたとは言え、人口的に少数派であるゲルマン人が、ガリア人、ローマ人を押さえ込んでいける時間的限界もあった。

 この問題に一つの解決を与えた事件が、ノルマン人の侵入であった。ほぼ同時期に、東方からはマジャール人、スラブ人の侵入がある。これらの外圧を受けて、ヨーロッパの農業共同体は、より効率的な自衛を行おうと結束を始める。いわゆる城砦を中心とした村落作りである。いち早くその地域に城砦を作ることができた者が、その村落の封建領主になる。外圧が深刻な問題であったため、在地の農民達は領民として、また近辺の領主になり損ねたゲルマンたちは騎士として、この封建領主のもとで結束することになる。

 さて、第1章で取り上げた、農業改革もほぼこの時代である。外圧により自然に集中した人口、農業経済力の上昇、この二つは、戦いに際して、小さい単位の封建領主というものの、合理性を保証する。各自が自分の領域だけをきちんと守っていけば、ノルマンによる侵略にも効率的に反抗することができる。学術用語では、この過程を「封建的分裂」と呼んでいる。逆に言えば、この時代に、村落ごとに発達した共同体を持ちつつ、村と村とを結ぶものは一本の路だけ、という中世ヨーロッパ独特の点と線の世界が出来上がっていくのである。

 こういう成立の封建制度だったので、当然その契約関係も独特のものになる。先ほど、その地域に城砦を築く能力を持った者が封建領主になった、と述べた。封建領主になれなかった者は、領主の家来として従属し、騎士の地位を受けていくのであるが、この際に、領主側は、できるだけ騎士と村落共同体とのつながりを希薄にしようと試みる。つまり、A〜Hまで8つの村落を支配している封建領主がいたとして、その配下の有力な騎士は、Aの村からも、Bの村からも、...Hの村からも、少しずつの領民支配を許されることになる。こうして、領主側は、騎士の反乱を防いだのである。一方、有力な騎士になると、いくつもの領主と契約を交わすという可能性がでてくる。どの領主も、外圧に抵抗するために、少しでも戦力が欲しい。先ほどの騎士が、例えば他の領主の支配する、P村やQ村の一部の領民を支配する、というような例である。ところで、複数の領主と契約を交わすためには、拘束される内容を詳しく取り決めておく必要がある。一日24時間、ひと月30日というようなことは決まっているのだから、もし4人の封建領主たちと複数契約をしていたら、例えばAの領主に対しては、月8日間の拘束という形で契約をする。それで戦いが8日を越えて続いた場合、契約に従って、戦線を離脱しても、誰も卑怯者とは呼ばない、こういうドライな契約関係が成立する世界だった。ヨーロッパの場合、こういう領主→騎士の封建関係以外に、領主同士、国王→領主、国王同士などの封建契約関係も存在して、状況を複雑にしているが、根本にこの領主→騎士のドライな関係があって、その様な上位関係も成立していくと考えられる。

 最後に、騎士物語につきものの、戦闘と婦人関係について見ておこう。まず、戦闘についてであるが、ヨーロッパの成立、騎士階級の成立は、同時に騎兵中心の戦闘を生み出していく。東洋のわれわれのイメージする騎兵は、軽騎兵だが、この時代のヨーロッパの騎兵は、重騎兵である。戦法は、通常、一騎打ちになる。槍、矢、刀に対して、かなり完全に防備がなされた、重騎兵同士の戦いは、主に相手の足である馬を狙った攻撃か、隙を狙った組み打ちになる。たいていの場合、殺すところまでは行かず、気絶させるか、動かなくして捕虜にする。その捕虜を身代金を取って返すというのが普通の戦闘であった。また、貴婦人との華麗な恋物語も、実はその背景に、婦人の知行相続権という身も蓋もない現実が見え隠れする。確かに、中世ヨーロッパは、相続権に関しては、男女平等が実践された社会であった。逆に、その女相続人を狙って、求婚者同士がいがみ合うというような場面も生じてくる。この実態を、レディーファーストの騎士道精神というオブラートに包んで、美化したものが、騎士と貴婦人との恋愛物語になっていったのだ。

 

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